本研究の目的は、18世紀後半から19世紀初頭までのイギリス急進主義の運動と思想を全体としてあきらかにしようとするものである。はじめこの時期の運動と思想は、「ウィルクスと自由」運動、ヨークシァ連合運動、フランス革命論争の三段階で考えていたが、昨年の実績報告に書いたように団結禁止法下の時期を第四段階を考えてそこまで視野を拡げる必要を感じ、本年はその時期の研究にも一部手をつけた。また8月に約一ヵ月イギリスに滞在して、大英図書館でアナリティカル・レヴューなど18世紀ラディカルズ文献の調査を行い、ワイヴィルのマニュスクリプトがノーズ・ヨークシァ・カウンティ・レコード・オフィスにあることなどをたしかめた。このアナリィティカル・レヴューは日本では慶応大学の図書館にそのマイクロフィルムがあり、大英図書館で作成したインデックスにもとづき慶応のマイクロフィルムから必要な部分のコピーを入手した。 問題は、この研究で入手しえた、また、所在の判明した史料の量がぼう大であり、どう整理し、どこで切るかである。また、本研究の交付申請を出した前後からイギリスとアメリカでこの関係の研究が多く刊行され始め、それらの整理と消化にもうすこし時間がかかりそうである。本研究の課題に「運動と思想」とあるように、私の問題関心は、民衆の運動と思想の相互関連であるが、具体的な方法としては、「ウィルクスと自由」運動のウィルクス、ヨークシァ連合運動のワイヴィル、人民の友の会のミラー、ロンドン通信協会のセルウォールといったように、それぞれの運動の指導的人物の思想の軌跡を運動の展開とのかかわりで分析するという方法で研究をすすめつつある。まとめるのにはまだ時間がかかるが、とりあえず本研究で入手(公費、私費)しえた史料を同じ問題に関心をもつ研究者と共有するべく目録公刊の橋を急いでいる。
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