本研究は、多変量時系列間の動学的相互依存構造を解析するために、新しい分析概念及び手段を確率論と統計的推測のそれぞれの側面において開発し、それらを応用することにより、主要なマクロ経済変数間の因果関係について従来の諸研究よりも包括的な展望のもとに因果性の検出を含む統計的推測を行うことが目的である。 本年度の研究において、以下の成果を得ることが出来た。 スペクトル密度行列の因子分解表現を用いて、一つの時系列から他の時系列への一方向効果を定義することが出来る。この一方向効果過程にもとづいて、多変量時系列間の結合測度、一方向効果測度、相互性測度が定量的に全測度と、周波数ごとの測度として定義出来る。 これらの測度の導入と、それらの従来の因果性の諸概念との関係を明確にすることが出来た。 これが本研究の主要な成果であり、この結果は、Probability Theory and related Fieldsに掲載が予定(1991)されている。 これらの諸測度を用いると、差分或いはトレンド除去されたマクロ経済変数の間の通時的及び共時的な相互依存構造が時間領域でも周波数領域でも統一的に表現が可能となる。 さらに本研究の成果として、これらの相互依存測度のそれぞれの統計的推測の方法の開発がある。 短期記憶過程に対しては多変量ARMA過程の推定がスペクトル行列の因子の推定値を与えるが、長期記憶過程に対しても多変量因子の推定法を開発した、これにより長期依存の度合を測定することが可能となる。
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