本研究計画は、中国近代江南の租桟帳簿、魚鱗冊、契約文書等の簿冊史料の統計的分析を行おうとするもので、その方法は、三つの部分に分かれている。史料の調査・収集、デ-タ-の電算機への入力、入力したデ-タ-の分析である。研究計画の第二年目の今年度は、昨年度に引き続き史料の調査・収集と電算機への入力を主に行った。調査・収集では、国会図書館の契約文書等の史料、東洋文庫の租桟帳簿・魚鱗冊、九州大学の租桟帳簿、天理大学・京都大学人文科学研究所の賦税関係簿冊等の調査を行い、一部の史料についてマイクロフィルムによる複写を行った。電算機へのデ-タ-入力は、一部研究補助員の助力を得て、租桟帳簿を中心に約50冊入力が終了した。マイクロリ-ダ-で読みながら電算機に入力するという作業のため、当初の計画より作業は遅れ、約半分程度しか消化しきれていない。入力したデ-タ-の分析では、国会図書館収蔵の「呉貽経桟」関係簿冊70冊を基に、清末・民国時期の租桟経営の内容分析を行い、北海道教育大学史学会の大会に「清末・民国期の江南の租桟経営について」という題目での研究報告を行った。その中で、江南の地主経営は民国に入り一定安定するが、これは減賦や漕糧折価の低下等の税負担の軽減によるもので、地方政権と郷紳の癒着の結果であり、江南の軍閥政権の性格を知る手がかりになる事を明らかにした。内容は『史流』第32号に掲載予定である。1991年11月中国広東省茂名市で開催された「紀念凌十八起義・141周年・紀念金田起義140周年太平天国史国際学術研討会」に「太平天国与蘇州農村」という題目の中国語の報告原稿を提出した。これはこれまでの租桟簿冊の分析研究及び新たに入力したデ-タ-を基に、太平天国が蘇州の農村社会に与えた衝撃・変化を解明したものである。日本語原稿は『北海道教育大学紀要』第42巻1号(1992年9月)に掲載予定である。
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