本研究計画は、江南の土地関係文書(租桟関係簿冊・魚鱗冊に限定)の調査・収集、パーソナルコンピューターへの入力、入力したデータの分析という三段階から成り立っている。研究計画の最終年度の今年度は、広島大・大阪市大・筑波大の各大学と東大東洋文化研究所・東洋文庫を訪れ、資料の有無の調査と簿冊作成租桟等に関する史料の収集を行った。三年間の調査の結果、日本の各機関に収蔵されている蘇州府を中心とする江南の土地関係文書は、租桟関係簿冊308冊(6機関、22租桟)、魚鱗冊196冊(5機関)が確認され、その大部分についてマイクロフィルムまたは電子コピーによる収集を完了した。データ入力については、日本で収蔵されている冊数が当初見込みより多かったこと、入力に費す時間も見込みの数倍かかったことなどから、予定より大幅に遅れ、完全に入力が終了したのは全体の三分の一の150冊(フロッピー200枚)である。これらのデータの一部を使用して『北海道教育大学紀要』(第一部B)43巻1号に「太平天国と蘇州農村」という論文を発表した。さらに調査・収集した文書資料について、作成者・時期・地域等の特定及び分類を行い、租桟関係簿冊と魚鱗冊双方について簡単な1冊毎の目録を作成し、データ分析から読み取れる近代蘇州農村の基礎的数値と併せて、1993年1月北海道大学東洋史談話会において「日本現存の租桟簿冊及び魚鱗冊について」という題目で報告発表を行った。目録については少し詳しい解題(現在作成中)をつけて公表の予定である。データの初歩的分析によれば、蘇州の小作料類、徴収方法、地主、佃戸の小作関係及び地域的分布情況、租桟の収支情況等の基礎データの数値は、同時代の各資料間ではほぼ一到することが確められており、今後残りの入力を継続し、各時期毎の比較的確実な数値を公表できる予定である。
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