本研究計画は、近代江南の土地関係文書の統計的分析を通じて農村の実態を解明する基礎的データを得ることであり、次の三段階の方法で行った。第一は江南の土地関係文書の内、特に租桟関係簿冊及び魚鱗冊に焦点を当てて、それらの日本の各大学・研究機関における収蔵状況を調査し、マイクロフィルム等で収集することである。調査の結果日本に現在する蘇州を中心とする江南の租桟関係簿冊(308冊)、魚鱗冊(196冊)が確認された。内訳は7機関、22租桟で、租桟関係簿冊は1820代から1930年代初めまでの百年間であり、魚鱗冊は清初から民国初めの約二百年間で、1地方の文書の量としては相当なものといえる。これらの文書各冊について目録を作り、簡単な分類と解説をつけて「日本現存の租桟関係簿冊及び魚鱗冊について-目及び分類」『史流』第33号に公表した。第二はデータのパーソナルコンピューターへの入力であるが、ロータス123を用い、全体の約三分の一の150冊程度の入力が完成した。今後引き続き継続していきたい。第三は入力したデータを用いての分析であるが、太平天国前後の収租状況を分析した「太平天国と蘇州農民」『北海道教育大学紀要』(第一部B)43巻1号と、国会図書館収蔵の呉貽経桟簿冊を基に清末から民国半ばまでの租桟の経営内容を分析した「清末・民国期の江南の租桟経営について-『呉貽経桟』簿冊を基に-」『史流』32号を公表した。データの入力・分析過程において、近代蘇州の1筆当りの小作地面積、1畝当りの小作料額、折価額、減免額等の小作条件、地主と佃戸の分布状況等は各文書や租桟間で相似していることが明らかになり、今後各文書間や他の種類の文書資料(例えば契約文書)・文献資料と対照した総合的な研究の必要がある。
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