本研究課題の達成のために、大きく二つのテ-マ、すなわち、インフォ-マル・セクタ-(家族)の社会経済理論研究とわが国現代家族の実態分析を実施し、ほぼ計画どおりの研究成果を得ることができた。 第一のテ-マにおいては、社会学習、文化人類学者による家族社会学の研究を調査するとともに、アメリカで発展しつつある家族経済理論の摂取に努めた。その目的は、家族社会学における家族形態・機能論と家族経済学における社会保障・貯蓄論との統合を図ることであったが、家族社会の成果を参考にすることによって、社会保障及び貯蓄の経済理論が従来よりもはるかに明確かつ現実的になったと確信する。 第二のテ-マにおいては、わが国現代家族の居住形態、相続関係、高齢者介護及び既婚女性労働力率の実態を未公表資料等も用いて重点的に調査した。その結果、たとえば、三世代同居世帯の減少という通説は支持されるが、親族ネットワ-クの存在を示唆する準同居・近居・一時別居という居住形態が増加していること、都市地域においても土地問題の深刻化から相続による土地取得が著しく増加していること、長期にわたる高齢者の介護が既婚女性の労働供給をますます抑制する傾向にあること、年金制度の充実が家族内部の現金形態の移転を縮少させていること等が明らかとなった。 民間の市場メカニズムによる所得保障や福祉には、民間保険市場に固有な逆選択という厄介な問題があるため、十分な市場成果は期待できない。したがって、高齢者の生活保障においては政府と家族の機能的代替性がかなり大きいと予想され、実際、実証分析でも代替性の高さが確かめられる。今後の本格的な高齢化社会に向けて、政府がいかなる政策をとるべきかは、家族の実態や反応、その社会的・経済的な影響を十分に考慮する必要がある。
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