この研究プロジェクトでは、国際政策協調が必ずしも、協調に参加した国の経済厚生を増大させない場合のあることを理論的にも確かめ、またその実例をG7(日米英独仏伊加)の為替レ-ト・タ-ゲット・ゾ-ン採用の一時期にあることを主張している。また、1985年のプラザ合意以降の為替レ-トの調整は、経常収支不均衡の是正には役に立ったものの、その調整には時間がかかること、従ってタ-ゲット・ゾ-ンの採用が必要であることを説いている。 通常は、国際協調は協調に参加した国の経済厚生を高めると考えられている。それは、ある国がとる政策は為替レ-トや貿易の変化によりほかの国に影響を及ぼす(外部性)ので、協調することにより、この外部性を内部化できるからである。また、為替レ-トの変動も、国際収支にたいして、時間差をもって影響する。従って、G7がある範囲のなかに為替レ-トをおさめるように金融・財政政策、および介入政策を発動するということは、政策協調の立場から意味のあることといえよう。 国際政策協調がうまくいかない場合には次のようなケ-スが考えられる。ひとつは、国際協調がなければ、A国の政策の誤り(たとえばインフレの高進)は為替レ-トの変化(減価)によりA国の不利に働くはずであるが、このような場合に、政策協調があると、為替レ-トが変化しないよう、B国もA国の政策をコピ-してしまうからである。1986ー88年にかけての、協調利下げによる、G7諸国の低金利政策は、この種の悪影響(バブルの発生)を日本に及ぼした可能性が高い。このように、タ-ゲット・ゾ-ンも、その運用を誤ると、必ずしもうまくいかないことが実証された。その目標設定、運用の柔軟性が政策にもとめられている。
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