1991年度の合計特殊出生率は1.53まで下落しており、わが国の人口の高齢化は予想を上回るスピ-ドで伸展している。これにともない、公的年金や老人医療への支出は急速に増加する。このような需要の増加を如何に賄うか、すなわち租税や社会保障の制度をどのように改革するか、また財源を如何に調達するかといった問題は、今後のわが国が直面する重要な課題である。 本研究では、これらの問題をまず公的年金の長期的な財政収支バランスのシミュレ-ションの分析とその背後の負担と便益の構造を明らかにすることから取り扱った。その結果では、保険料の大幅な引き上げ、国庫負担の拡大、あるいは給付レベルの引き下げ、などの制度改革を実施しければ、人口の高齢化により公的年金制度の財政収支は危機的な状況に陥ることが判った。そこで、さまざまな改革を実施した場合の経済的な影響を分析した。その結果では、租税と社会保障負担を含めた国民の公的負担は高齢化にともない、大幅に上昇せざるを得ないが、負担をどの世代に求めるかにより世代間の対立を生み出しかねないことが明らかになった。特に、一昨年提案された政府の改革案の影響をシミュレ-ションした結果では、より新しい世代ほど負担が重くなり、得られるベネフィットが小さくなることが判った。 このような公的年金の質的な低下が予想されるので、それを補完するシステムとして、本研究でつぎに、個人年金の需要構造の分析を行い、その普及のためには税制を用いることが有効であることを示した。さらに、経済ストック化と税制の関わりを分析し、土地資産に対する課税の高齢化による財政需増大を賄う財源としての有効性と地価抑制に対する効果とを明らかにした。
|