研究概要 |
本研究の目的は,1930年代のニュ-ディ-ル期の連邦政府による電話事業規制下のアメリカ電信電話会社(American Telephone & telegraphe Co.=AT & T)の企業システムを実証的に分析することにより,政府規制の展開が企業システム(戦略ー組織)に与える影響を考察することである。課題としては,1.合衆国における連邦政府による通信規制の成立・展開とその背景の分析,2.連邦政府の通信規制下でのAT&Tの企業システムの分析,3.政府直接規制下のAT&Tの企業システムの歴史的意義の解明にあるが,今年度は計画通り,第1.の課題を以下の二点を中心に研究を進め,2.3.の課題は次年度の継続研究となる。 (1).合衆国における通信規制の成立および展開の背景についてー収集した合衆国統計局の『電話に関する年次統計』,AT&T Archivesの一次資料,AT&TのAnnual Report等のコンピュ-タ-への入力および資料の整理・分析により,20世紀初頭特に1907年の不況から第一次世界大戦前後に,AT&Tは「特株会社」形態による統合方式の「ル-スな連合体」から「中央本社の階層的組織(「機能別組織」)により統括された「管理的統合体」に企業システムを転換すると同時に合衆国の電話事業における独占体制を確立した。こうした電話事業における競争構造の変化,さらに1907年セオドア・ル-ズベルトによる「トラスト狩り」(Trust Busting)=反トラスト政策の展開が,合衆国における通信規制の成立の背景となる。 (2).州際商業委員会(ICC)の通信規制の成立と連邦通信委員会(FCC)への展開についてー1910年マン・エルキンズ法により電話事業はICCの監督下にはいるが,13年司法省との和解を契機にAT&Tは進んで通信規制を受容した経営戦略ー企業システムを構築した。すなわち,独立系企業との競争から協調に戦略転換し,ICCの料金・会計を中心とした規制を積極的に受容したAT&Tは,規制された「自然独占」であることを公的にも容認され,20年代の「電話事業の繁栄」を享受した。ニュ-ディル期のFCCの成立は,規制された「自然独占」としてのAT&Tの完成形態であり,この点について次年度研究を深めたい。
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