研究概要 |
アメリカ企業が自発的・積極的な会計情報公開に熱心であるのに対し、日本企業の姿勢は非常に消極的であることがしばしば指摘されてきたが、本研究は日米間でこのような顕著な差異が生じる原因を調査するため,企業による会計情報の公開を株主向けの財務公報活動として特徴づけ,「株式安定化の程度が低いほど(すなわち浮動株主の割合が大きいほど)企業は積極的な財務公報活動を行う」という仮説を提示して,これを実証的に分析した。具体的には,東京証券取引所第一部上場企業について、(1)決算日から決算発表日までの経過日数,および(2)次期利益予測値の偏向の程度を従属変数としてとりあげ、浮動株主比率を独立変数とするクロスセクション回帰を実施した。 実証分析の結果、浮動株主比率が高い企業ほど、決算日後のより早期のうちに決算発表を行う傾向があることが発見された。これは浮動株主比率が高い企業ほど,株主からの情報公開要求に積極的に応える傾向があることを意味するものである。また同時に、浮動株主比率が高い企業ほど、経営者が公表する次期利益予測値は,よりいっそう保守的であることが検出された。この証拠は,浮動株主比率が高い企業の経営者ほど,実績利益が予測利益から乘離した場合の株主からのサンクションを回避しようとする傾向がよりいっそう強力であることを示唆するものとして解釈される。 このように株式安定化は日本企業の財務公報活動に有意な影響を及ぼしており、したがって日本企業が一般に会計情報の公開に関して消極的である原因のひとつは、日本企業の株主構成の特徴としての株式安定化に存するものと結論づけられる。
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