2年間の研究により得られた研究成果は次のようにまとめられる。 1)通常の量子力学の枠組みを相対確率を基礎とする形式に広げる事により、ほぼ量子拘束条件のみを用いて重力理論を含む完全拘束系の整合的な正準量子論を構築できる。 2)複素正準形式に基づく量子論では、形式的な量子化により得られる正準運動方程式と3脚場に対する実数性条件を両立させることは困難である。しかし、1)で述べた量子拘束条件のみに基づいて量子論を構成するアプローチでは、複素正準形式を3脚場に対する実正準形式の特別の表示と見なすことにより矛盾のない理論を作ることが可能である。 3)宇宙項がゼロでない真空重力場に対しては、複素正準理論を用いて量子拘束条件に対する厳密解を得ることができる。この解は、一般的な時空の量子論的振る舞いを記述する初めての厳密解で空間的に一様なセクターではHartle-Hawkingによって提案されたものと対応しているが、従来の計量を基本変数とするADM-WD理論と異なり古典的に禁止された領域にまで滑らかに広がりそこで指数関数的に減衰する振る舞いを示す。 4)この厳密解の記述する波動関数に対応するWKB軌道のうち厳密なローレンツ時空を与えるものは、一様等方なドジッター時空に限られる。したがって、この解は宇宙論的には、ユークリッド時空からのローレンツ時空の創生という描像を与える。 以上の研究成果はPhysical Review D誌、第6回マルセルグロスマン国際会議、Reports in Astrophysics & Cosmology誌(出版予定)に発表された。
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