本研究が始まった当初と3年後の今とを比較すると、その間に素粒子理論の中心テーマは大きく変化した。当時は素粒子の超弦模型と完全可積分系理論との関係が明らかになってからまもなく、素粒子論の基礎的な研究の向かう方向がまだ定まっていなかった。しかし、量子群という数学的手法を通して次第に色々な方向の研究の間の関連が明かとなり、いまや一つの大きな流れとなって研究が進められようとしている。 本研究の課題である、超現場の理論を完全可積分系という立場からみて構成する問題に関しても、弦模型を場の理論として量子論的に一般化するとき、まず量子群論的な拡張をする事が始めの問題となる。この考えに立って、弦模型の持つ大きな対称性を基礎付けているVirasoro代数に付いて、その量子群論的な拡張が試みられた。Virasoro代数の量子群論的な一般化というテーマのみに限っていえば、いくつかのグループがこれを試みて未だに成功していない。しかしこの研究を通して我々は重要な結果を得ることが出来た。即ち、可積分性を保存したまま完全可積分系を変形するときに最も役目を引き受けているのは、可積分系の持つ変数の離散化に対する安定性に他ならないという点である。このことをテーマとした数学、物理共同の研究会を都立大学を会場として主催した。そこでは熱心な討論が行なわれ、特にカオスに関連した力学系との対応を明らかにすることが出来た。 超弦理論の相関関数が満たすべき広田差分方程式を、離散力学系として定式化するという問題に付いて、これを複素力学系と考えるならば、力学系一般の中に完全可積分系を特徴づけられることが示された。、また、Virasoro代数を差分化し、そのMoyal代数との関連を明かにすることによって、量子群とは異なる意味での量子化が可能となり、従って弦模型の場の理論的な一般化が可能となる。これらに付いては、研究会等で発表し更に論文としてまとめ現在投稿中である。
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