光励起された固体中のd電子は、結晶場分裂した多数の副準位間を逐次的に無輻射遷移し、発光始状態である最低励起準位が緩和する。この系でのエネルギー緩和機構を明らかにすることを目的に、本研究では超短パルスレーザーを用いた時間分解分光法により、d-d準位間遷移時間の直接測定を行った。 モデル系として、YAG結晶中のCe^<3+>イオンを選び、UV光パルスにより、4f電子を第二5d準位(5d_b)に励起した。最低5d準位(5d_a)への緩和に伴う励起状態吸収(ESA)および黄緑発光の立上りを、ポンプ・プローブ法およびストリークカメラにより観測した。両者の立上り時間(I)は実験誤差内で一致し、80K以下では約40psの一定値をとった。Iは、80K以上で除々に短かくなり、300Kでは5ps以下となった。この結果は、5d_bのフランク・コンドン状態に光励起された電子が、5d_b準位内で緩和励起状態(RES)まで急速に振動緩和した後、トンネリングあるいは熱活性化過程により、5d_aへ静的に無輻射遷移することを示す。以上の結果から予想される5d_bのRESを始状態とするUV発光を検出し、その発光寿命が、ESAおよび黄緑発光のIと一致することを確認した。高励起5d準位を始状態とする発光の検出は、本研究が初めてであり、超短光パルスに対しては、光増幅器として働く可能性が示された。 上記の超短パルスレーザーを用いての時間分解分光法を、多様なd電子系に適用するために、励起波長域の拡大および新たな励起法の開発を行った。前者に関しては、F^+_2中心が赤外域での光源として有望であること、後者に関しては、2台のレーザーを用いての時間差二段階励起によるポンプ・プローブ法が有効であることを示した。
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