本年度においては、以下に述べるような極めて有益かつ興味深い収穫が得られた。ただし、当初目指していたのとはやや異なる方向に研究が進展したことを初めに申し添えておく。すでに前年度の報告の中で述べたように、NaNO_2について行なった緩和法による再測定の結果、不整合相における緩和は初期の測定で観測されていたよりもさらに長時間にわたって起きていることが明らかとなった。このため、はじめに計画していた超低周波交流法での測定は現段階では測定可能な周波数範囲が十分でないと判断し、今の所測定の開始には至っていない。一方で、これもやはり前年度報告したように、申請者らはリン脂質膜の主転移点近傍における熱緩和の測定を行ない、100秒程度のタイムスケ-ルで進行する緩和がみられることを見いだしたが、この方面では予想以上の進展がみられた。今年度は鎖の長さの異なる2種のリン脂質DMPCとDPPCについて系統的な測定を進めた。測定は周波数0.0005〜0.1Hzの交流法で行ない、熱分散の様子を定量的に調べた。その結果、DMPCについては、緩和時間が約50秒であり、多分散の程度を示すパラメタβが約0.7であること、またDPPCでは緩和時間が約250秒、βが約0.5であることがわかった。とくに、緩和時間は側鎖の長さに大きく依存することがわかった。他のリン脂質についても測定を計画中であり、今後さらに多くの成果が得られると期待される。ただし、測定はつねに測定精度の限界付近で行なわれており、よりいっそうの装置改良が必要であると判断される。
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