申請者は最近、強誘電体亜硝酸ナトリウムの不整合相内で温度をステップ状に時間変化させるとその後熱容量が数十秒にわたって時間変化することを見いだした。熱容量がこのような動的緩和現象、すなわち、『熱分散』を示すことは非晶質やガラス転移点近傍などのごく限られた場合に観測されているが、不整合相について見つかったのはこれが初めてである。不整合相と非晶質状態という、一見かけはなれた2つの系の間に何らかの共通点があるのかもしれない。この様な考えから本研究は出発した。 ◎測定装置の整備……測定においては温度を極めて精密に安定化する必要がある。当初の装置は精度が不十分であったので、熱浴の温度の測定を交流駆動ブリッジに変更し、温度制御の安定度を向上させるなどの改良を行なった。当補助金はその際必要となったロックインアンプ、ディジタルマルチメ-タなどの購入に用いた。 ◎亜硝酸ナトリウムについての測定……緩和法による測定の結果、不整合相における緩和は初期の測定で観測されていたよりもさらに長時間にわたっており、緩和の終了までには数百秒以上が必要であること、緩和過程の初期を除けば緩和の進行は単純な指数緩和からは外れていることが明らかとなった。また、熱容量及び誘電率の緩和の同時測定を行ない、熱容量と誘電率における緩和の進行は様子がよく一致することが明らかとなった。 ◎リン脂質についての測定……リン脂質膜の主転移近傍における熱緩和の測定をまず熱緩和法を用いて行ない、DSPにおいて100秒程度かけて進行する緩和がみられることを見いだした。続いてDMPCとDPPCについての交流法で測定を行なって緩和時間および多分散の程度を示すパラメタβを決定した。とくに、緩和時間は側鎖の長さに大きく依存することがわかった。
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