研究概要 |
今年度は複雑な磁気構造を持つ物質としてMn_3MC(M=In,Sn),Mn_4N,MnHgとMnZnを取り上げバンド計算を行なった。 Mn_3MC(M=In,Sn)はペロブスカイト型の結晶構造を持ち,2種類のMn(MnI,MnII)がある。MnIの磁気モ-メントはC軸方向に強磁性的に配列し,MnIIのモ-メントはC面内で互に90°をなす強磁性と反強磁性が共存するめずらしい磁気構造が出現することが実験から分かっている。我々はこの共存状態以外にMnIとMnIIのモ-メントが平行(強磁性)と反平行(反強磁性)な状態をも仮定し電子構造と全エネルギ-を計算した。その結果,観測されたとうりに共存状態が最も安定であること,その安定化は,異ったスピン状態間の混成効果によることが分かった。更に,共存状態のMnIIの磁気モ-メントのC面内の磁気異方性は小さいこと,MnIでは軌道角運量が0.2程生き残っていることが分かった MnZnとMnHgは共にCsCl型の原子配列をするが,Mn原子の磁気モ-メントの配列は異なっている。格子定数の小さいMnZnは強磁性と反強磁性が共存した状態で,それぞれのモ-メントは直交している。一方,格子定数の大きいMnHgは単純な反強磁性配列をしている。我々は磁気単位格子中の2個のMn原子のモ-メントの方向を[0ー10]及び[010]としたモデル,[0ー11]及び[011]としたモデルを考えバンド計算を行なった。前者のモデルが強磁性と反強磁性が共存した配列に相当する。バンド計算により次のような結果を得た。全エネルギ-は実験により提案されたモデルがより安定であり,磁気モ-メントの値も実験値をよく再現している。さらに,MnZnで強磁性と反強磁性の共存状態が出現する原因については,Mn原子の異なったスピンを持つ電子間の混成効果が大きな役割を演じていることが示唆された。
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