研究概要 |
各種金属表面に吸着した原子あるいは分子の吸着状態の解明は、表面における種々の化学反応の研究の基本となる。本研究の目的は、電解液中の貴金属表面反応の素過程をラマン分光の実験によって解明することである。まず、ラマンノッチフィルタ-,シングル分光器および光検出器を組み合せて、超高感度ラマン分光システムを構築した。この分光システムを用い、希硫酸中のAg,Pt電極表面吸着種の"その場観察"ラマン分光の測定を行った。電極電位を繰り返し走査すると同時にラマンスペクトルを測定した。Ag電極の場合には、SERS(Surface Enhanced Scattering)効果により、電極表面にAg_2SO_4膜の存在している電位領域で、(1)Ag_2SO_2膜のSERS、(2)Ag_2SO_4膜上に析出したAgクラスタ-に化学吸着したSO_4^<2ー>のSERSが観測された。Pt電極の場合にはSERS効果が無いので、電解液、窓材のラマン散乱によるバックグラウンドの強度が吸着種によるラマン強度に比べて著しく大きくなる。バックグラウンドを除くために、電極表面の吸着種が最小と思われる電位と各電位の差のスペクトルを1スペクトル当り2時間積算した。しかし、酵素吸着域でPt電極の可視領域の反射率が減少する結果、バックグラウンドと似た差スペクトルがえられた。このスペクトルに反射率変化の補正を施した結果、酸素吸着領域で、(1)SO_4^<2ー>、HSO_4^ーによるラマン線の強度の増加、(2)500cm^<ー1>付近にブロ-ドなラマン線の出現、が観測された。(1)は電極表面吸着種または拡散層領域の負イオン濃度の増加、(2)は吸着酸素原子によると考えられる。特に、(2)の結果は赤外分光では測定不可能な周波数領域にあり、本研究で初めて測定された。(1)の結果は、既に赤外分光によって得られている結果と矛盾しない。今後、我々の測定法により、多くの電極系について詳細な吸着状態の電位依存性が明らかになると期待される。
|