本研究は、水溶液中において分子集合体としてのミセルを形成する界面活性剤水溶液の臨界共溶点近くにおいて、ずり応力を印可したときの臨界ダイナミクスを二成分流体系の臨界普遍性の類に属する液体混合物イソ酪酸+水系との比較を行うことにより実験的に調べることを目的として計画された。当初計画に従って現有の同軸円筒型回転粘度計を分光学的機能を備えたものに改良した。また、粘度計に窒素ガスを圧力媒体とした圧力ラインを接続し、熱力学的安定領域にある系を圧力ジャンプを用いて不安定領域に速やかに移行し、相分離過程にある溶液の粘性を時間の関数として測定した。二成分液体混合物とミセル系のそれぞれについてこれまでに得られた成果を以下に概略する。 1.二成分液体混合物イソ酪酸+水系 (1)臨界温度のずり速度依存性を特徴づける臨界指数値0.52を得た。この値は理論値およびアニリン+シクロヘキサン系のそれとよく一致した。 (2)相分離過程にある粘性をずり速度を変えて、時間と温度の関数として調べた。見積られた粘性異常の大きさはずり速度に依存し、その大きさは約40%であった。 2.非イオン性界面活性剤テトラエチレングリコ-ル・デシルエ-テル(C_<10>E_4)水溶液 (1)ミセル系C_<10>E_4+水系の臨界温度のずり速度依存性を特徴づける臨界指数の値はイソ酪酸+水系のそれとよく一致した。また、このミセル系の臨界温度のずり速度依存は、イソ酪酸+水系より約3倍大きいことが分かった。 (2)(1)は、臨界温度を印可するずり応力によって比較的容易に変えうることができることを意味しており、この特徴を生かしてずり速度を0にクエンチ(Shear quench)したときの相分離のダイナミクスを調べた。この実験からshear quenchの大きさによらず、その相分離挙動は1つのマスタ-カ-ブで表わせることが分かった。 (3)このミセル系の臨界粘性の挙動を調べ、臨界粘性の異常を特徴づける臨界指数値0.04を得た。この値は二成分流体系の臨界普遍性の予測に一致することを明かにした。 (4)現有の光散乱装置を用いて静的および動的光散乱実験を行い、このミセル系の臨界挙動が流体系の臨界点普遍性の類に属することを明らかにした。ここで得られた臨界パラメ-タの値は、(1)および(2)の結果を無次元量に換算するために用いられた。
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