本研究では水容液中において分子集合体としてのミセルを形成する界面活性剤水溶液の臨界共溶点近くにおいて、ずり流動場での臨界ダイナミクスを、典型的な二成分液体混合物イソ酪酸+水系のそれとの比較を通して臨界普遍性の観点から調べた。 1.臨界粘性のずり速度依存性 非イオン性界面活性剤テトラエチレングリコ-ル・デシルエ-テル水容液を用いて、臨界粘性のずり速度依存性を特徴づける臨界指数値として0.02を得た。この値は小貫・川崎の理論値とよく一致した。 2.臨界点近くでの非ニュ-トン粘性の一般的挙動 臨界粘性の挙動をずり速度と臨界ゆらぎの生存時間の関数として調べ、その非ニュ-トン効果が単一普遍的関数を用いて記述できることを明かにした。従って、得られた結果は他の流体系にも共通であることが期待される。 3.ずり速度に関するクロスオ-バ-温度 ずり流動場のもとにある系からの前方散乱光を観測することにより、共存曲線内部において、ずり速度に依存する特性温度を実験的に決定した。界面活性剤水溶液およびイソ酪酸+水系について得られたこの特性温度のずり速度依存性を特徴づける指数値は共によく一致し、その値は小貫・川崎の理論的予側とよく一致した。この温度がずり流動場でのクロスオ-バ-温度によく対応することを明かにした。 4.共存曲線内部での非ニュ-トン粘性 上記3.で得られた特性温度を境にして、粘性におけるずり速度依存性が少なくとも2つの領域に分けられ、その一方のずり速度依存は上記1.のそれと一致するのに対し、他方は共存曲線内部の相分離過程で出現するドメインに明かに依存することを示唆する結果を得た。 5.相分離(スピノ-ダル分解)過程における粘性挙動 粘度計に窒素ガスを圧力媒体とした圧力ラインを接続し、圧力ジャンプ法を用いて相分離過程での粘性挙動を主にイソ酪酸+水系を用いて調べた。ずり速度一定のもとで時間の関数として得られた相分離過程の粘性挙動から、適当な条件のもとでは約50%の粘性異常を観測した。この極端な粘性異常は相分離過程でのドメインに起因することを示唆する結果を得た。 6.シェア-・クエンチによるスピノ-ダル分解 界面活性剤ミセル水容液のずり速度依存が大きいことから、ずり速度を急激に0にする(シェア-・クエンチ)手法を用いてスピノ-ダル分解のダイナミクスを調べた。相分解の初期を除いて、その挙動は普遍的振る舞いをすることが分かった。
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