今年度の研究実施経過と新たに得られた知見を、以下にまとめる。 (1)ゲルのバルク物性の形状依存性の測定とその解析 イオン化したNーisopropylacrylamideゲルの平衡膨潤度及び転移温度が、試料表面の極率半径に強く依存すると言う前年度の研究結果を受けて、本年度は、この特異な現象のミクロな機構の解明を目指した。電気化学的起源に基づく表面張力が主要な原因であると言うモデルと、ゲル化時点で凍結した構造欠陥が表面に存在すると言うモデルとが考えられる。ゲル化条件を種々変化して作製した試料を用いた測定により、後者のモデルは一応否定された。しかし、表面張力の直接測定は難しく未だ成功していないので、現段階では、前者のモデルが正しいとは結論出来ない。 (2)イオン性ゲルの表面電位の測定 AgーAgCl電極を用いて、ゲルの表面電位の測定を行った。中性ゲルでは表面電位はゼロであるが、イオン性ゲルでは網目に含まれるイオン量によって数十〜百mVの電位が観測できた。この事は、イオン性ゲルにおいて電気化学的起源による表面張力が存在することを強く支持するが、それが観測結果を完全に説明し得るほど大きいものであるかどうかと言う定量的問題については、今後更に測定を重ねる必要がある。 (3)高分子網目の動的不均一性の測定 当初予定した、ゲルの表面励起モ-ドの測定は、きわめて微妙な光学調整を要するため時間が掛かり、未だ有意義な結果を得るに到っていない。それとは別に、ゲルが非平衡状態から平衡を達成する過程において、大振幅で規則的な揺らぎモ-ドを示すことが明らかになった。これは、ゲルの動的不均一性と関連して興味深い問題であり、現在詳細な測定と解析を行っている。
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