研究概要 |
アモルファス遷移金属が良く定義された最隣接殻をもつことに注目して,環境効果の有限温度磁性理論をアモルファス系に拡張した。この理論の拡張によって,金属から絶縁体までの結晶・合金・アモルファス・液体等の広範囲にわたる有限温度磁性を統一的な観点から取り扱うことができるようになった。次に,理論をアモルファス遷移金属へ適用し,α電子数と温度を変えて数値計算を実行した結果,以下の新しい理論的な成果を得た。第1に,アモルファスFeにおける強磁性消失とスピングラス相の出現を見出した。この場合,構造の揺らぎに起因する局在モ-メントの振巾の揺らぎが非線型磁気相互作用を通じて強磁性と反強磁性結合の競合を作り出しており,これがアモルファス純Feの特異な構造不規則型遍歴電子スピングラスを特徴づけていることを明らかにした。第2に,アモルファスCo付近では,構造不規則性によってキュリ-温度が増大することを初めて示した。これは,構造不規則性は単にキュリ-温度を下げるだけだという従来の常識を覆す新しい結果であり,そのメカニズムは,基本的にはアモルファス状態密度のメインピ-クがbccとfccのピ-クの中間にくるために丁度Co近傍で強磁性エネルギ-の利得が増大することによる。また,同様の電子状態の変化の為に,アモルファスNiの強い強磁性が壊れ,常磁性あるいは弱い強磁性を示すことを予言した。 これらの結果は,従来のメタロイド系アモルファス遷移金属合金の磁性と全く異なるものであり,この分野に実験・理論の両面で大きなインパクトを与えるものと確信している。
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