研究概要 |
昨年度の研究に引き続き、高エネルギーイオン原子衝突におけるトーマス過程を摂動論、非摂動論の両方にまたがって研究を行った。摂動論では、励起状態に対する2次ボルンの散乱振幅を世界で初めて近似を用いずに積分することに成功した。2次のボルン振幅は解析的に3次元積分にまで引き下げることができるが、この積分をモンテカルロ法とNewton-Cotes法を組み合わせることにより数値的に実行した。従来の計算では、基底状態の散乱振幅に対して1/n^3のスケーリング則を仮定して用いていたが、この研究により微分断面積に関してはスケーリング則が成立しないことが実証された。入射イオンがポジトロンのように軽粒子である場合には、いくつかの二次ボルン振幅が干渉を起こすため精密な計算が要求される。ポジトロン散乱では束縛状態の偶奇性に応じて、干渉が相乗的になったり、破壊的になったりすることが知られており、破壊的な干渉をする場合には精密計算が特に重要である。今までの研究では、トーマス臨界角である45度の干渉が起こることが予想されていたが、本研究により23度と39度の角に鋭い谷ができることが見いだされ、またこの谷は二次のみではなく1次と2次のすべての散乱振幅の干渉によって引き起こされていることが指摘された。非摂動論的手法では、近年開発されたガウス基底展開法によりトーマス過程を研究した。昨年速報として報告された計算にp,d軌道を加えることにより、基底の収束性を調べた。この結果、従来考えられていたよりもはるかに収束性がよく、d波で十分収束していることが示された。また、緊密結合方程式を逐次近似法で解くことにより、摂動論と対応づけることに成功し、一中心展開では2次でほぼ収束するが、二中心展開では最低3次まで計算する事が必要であることを示し、学会に衝撃を与えた。
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