非相対論的な緊密結合法においてはクローン相互作用の長距離性をあらわに考慮する必要のないことが戸嶋らの研究によって明らかにされているが、この状況は相対論的衝突では一変することを指摘し、長距離性を無摂動状態に取り込んだ歪曲波を基底にとった緊密結合法により数値計算を行った。その結果、長距離性を考慮しない扱いの場合と因子2以上の違いがでることが、U^<92+>+U^<91+>の衝突において示された。アイコナール近似に対称化をほどこしたsymmetric eikonal近似は簡便さのために相対論的衝突において近年もてはやされていたが、正しい境界条件を満足させず、このため非物理的に異常なスピン反転断面積を与えることを解析的、数値的の両面にわたって示した。その後、超高エネルギー衝突に適用することを念頭に置いて、ガウス基底展開に基づく緊密結合法のコードを開発した。超高エネルギーイオン原子衝突では、トーマス過程と呼ばれる、2次のボルン項が一次を上回るという逆ざやのおこることが摂動論によって指摘されていたが、そもそも摂動論自体の基礎付けが問題となるにもかかわらず、従来のすべての理論研究は摂動論に基礎をおいていた。この新しい緊密結合法のコードにより、世界で初めてトーマス過程の非摂動論的解析に成功した。この結果、トーマスピークは多重散乱効果によって、小角側へずれること、二中心連続状態を経由する3次の摂動項が重要な寄与をしていることが明らかになった。一方、完全な古典論によってトーマス過程を研究することの重要性が長く指摘されていたが、古典軌道モンテカルロ法の専用コードを開発することにより実現した。今までの予想に全く反して、トーマスピークは存在しないことが実証され世界を驚かせた。この研究に端を発して、二次ボルン項の厳密計算を開始し、励起状態の干渉効果を考察した。
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