上部マントルと同じ温度圧力条件において安定に岩石・鉱物の熱伝導率を測定する技術を確立するため、これまでに開発した測定法の改良を試みた。本年度あらたに購入したメモリ-機能を備えたデジタルマルチメ-タ-を使用することにより、試料内部の温度内部の温度変化を従来の5倍の速度で測定することが可能となった。そのため、我々の採用している非定常熱線法でのデ-タの質は向上している。とくに高圧下において試料温度を上昇させて測定した場合、ロ-パスフィルタ-と組み合わせた新しい測定系は、試料加熱系に由来する雑音の排除に効果的である。このことにより、400℃以上の温度でも意味のあるデ-タがとれるようになった。現在、1000℃近くになると試料内部に電気的な干渉が起こるため、測定可能な温度領域は5GPaの圧力において800℃近辺までである。しかしながら、ほとんどの岩石は1000℃付近では温度による大きな熱伝導率変化が見られないため、上記の測定条件でも地下およそ150kmにおける熱伝導率を見積もることが可能である。 地表に広く分布する花崗岩や玄武岩の熱伝導率は、この条件下では約2W/mKほどであるが、マントル構成物質のダナイトやパイロキシナイトではその2倍もあり、地球内部の温度計算にしばしば採用されてきた仮定値よりも大きいことがわかった。上部マントルの主要鉱物であるフォルステライトの結晶についても測定を行ない、ダナイト等の熱伝導率が高温高圧下でもなお大きい原因が、その主要構成鉱物であるオリビンの熱物性そのものに由来することを確認した。現在、このオリビンからスピネルへの相転移にともなう熱伝導率変化の測定を、類似物質において試みている。
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