平成2年度以前にすでに数例行った試験測定から、分光器の機械的波長走査速度のランダム誤差が、成層圏水酸分子による吸収を定量する際の最大の誤差源となっていることが判明していた。平成2年度は機械的波長走査をやめ、1次元半導体素子を用いたマルチチャネル分光システムを導入することにより、この難点を乗り越えるべく、主装置の購入・製作、補助装置の製作、試験測定および解析ソフトウェアの開発を行ってきた。 しかし、平成2年秋の時点では信号雑音比が期待を下まわり、所定の定量精度を得るためには至らなかった。この点の解決のため、それ以降次に述べる2点の改良を行っている。ひとつは紫外光検出部の冷却を強化することによる熱雑音の低減であり、固体素子部分だけではなく、前段のイメ-ジテンシファイヤ部分の冷却も水冷ペルチェ素子で行うこととした。もうひとつは光学系の反射率の改良で、既存だった口径50cmナスミス太陽追尾・集光システムの反射鏡4面の再メッキ、および紫外用のフッ化マグネシウム膜コ-ト化を進めている。 測定に用いている波長308nmにおける反射率は経年劣化していたと思われるので、この作業は信号雑音比の向上に大きく寄与すると考えられる。 以上の整備作業は平成3年3月中旬に完了するので、それ以降は良好な測定が可能となる。これまで観測的にはほとんど不明だった成層圏水酸分子の日変化および季節変化に関する知見を得ることにより、成層圏光化学の発展に寄与できると期待される。
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