昨年度までの作業により、測定系の基本性能である追尾精度、波長純度および信号雑音比に関する必要条件は満たされ、昨年度末より実際の解析用データ取得と解析アルゴリズムの開発・改良を進めた。ところが今年度初頭におけるテスト解析結果は極めて不安定であった。測定系の必要性能はすでにすべて満たされており、予想吸収量と測定信号雑音比から日中の測定では10%程度のランダム誤差を期待していたが、数百%のランダム誤差が現れたのである。 原因究明には半年近くを要したが、測定系の温度ドリフトによる測定波長のズレが主因であることが5月に判明した。また副因としては太陽光球面上におけるフラウンホーファー線輪郭のムラの影響も大きいことも判った。温度ドリフトに対処するために、測定装置周りの環境整備を行うと共に、温度ドリフトの時定数を見極めて信号積分時間と解析アルゴリズムに反映させ、ほぼ解決することができた。フラウンホーファー線輪郭のムラに対しては地球大気吸収線との幅の違いを利用して、数値フィルタを用いた差分吸光法的方法をアルゴリズムに取り込むことにより解決することができた。 良質の測定データは5月より蓄積され始め、現在に至っている。夏期は雲量が多く週1日程度しか観測できないが、冬期には週3日程度することができる。これまでの測定データから太陽正中時の垂直コラムは夏期・冬期においてそれぞれ6×10^<13>cm^<-2>・4×10^<13>cm^<-2>程度であること、夏期においては太陽天頂角が60度まで増加すると垂直コラムは4×10^<13>cm^<-2>まで減少することなどが分かってきた。手元にある一次元化学・拡散モデルでも同様の振る舞いをほぼ再現することができ、我々の成層圏化学に関する認識は真実からあまり遠くないことが確認できた。
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