研究概要 |
前年度までの研究で,数種の金属酸化物粉体に対する水蒸気の微分吸着熱の直接測定から,微分吸着熱を吸着量に対してプロットした吸着熱曲線が,エネルギ-的に均一な表面をもつものと不均一な表面をもつものの2つに大別できることが明らかにされた。一般に粉体表面はエネルギ-的には不均一であるといわれていることを考えれば,均一表面を有する粉体は特異的であり,この点非常に興味深い。本年度においては,前年度の研究計画を引き続き遂行し,とくに表面均一性と表面構造との関係について詳細に検討した。酸化ニッケル(NiO)は岩塩型構造をとり,結晶学的にはその(100)面が優勢な露出面であることより,吸着熱と表面構造との関係を調べるのに好都合の試料である。25〜600℃の間の種々の温度で前処理したNiO試料について得られた微分吸着熱曲線には,水の解離吸着に伴う80〜90kJ/mol(I)と物理吸着に起因する50〜60kJ/mol(H)の2つのプラト-(吸着熱一定の部分)が現れた。測定に用いたNiOは実際TEM観察より立方晶の(100)面が発達しており,表面水酸基量の測定結果とも併せて考えると,この表面に生成した水酸基は表面Ni^<2+>イオンの約半数を覆っていることになる。この吸着過程がプラト-Iに対応する。残り半分のNi^<2+>イオンは化学吸着が完了した時点でも表面に露出しているが,このカチオンサイトは比較的強い物理吸着サイトとして作用し,この吸着過程がプラト-IIに対応し,また水蒸気吸着等温線のステップを生じる原因となることが推論された。これは以前ZnO,SnO_2,Cr_2O_3などについて見られた表面水酸基層上での水の二次元凝縮に起因してステップとは異なる。また,磁性粉体のγーFe_2O_3についても前処理による水蒸気吸着熱の変化を調べ、スピネル型の結晶構造における6配位と4配位のFe^<3+>イオンが表面ではそれぞれエネルギ-的に均一な化学吸着サイトおよび物理吸着サイトとして作用することが明らかにされた。
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