分子の特定の振動モ-ドを局所的に励起した場合、単分子分解反応速度が通常の熱反応と比べてどのように違う挙動を示すかという問題は反応速度論において重要な課題である。理論計算では振動モ-ド間のカップリングの大きさで議論がなされるが、実験で観測する試みはほとんどない。本研究課題では局所的振動モ-ド励起法として反応物をアルゴンで数%以下に希釈した混合気体を衝撃波で10^<ー6>秒以内に約1500Kに加熱し、2×10^<ー4>秒後に衝撃波管に垂直な方向から数10mJのCWーCO_2レ-ザ光を照射した。その結果、アクリロニトリルでは明らかに照射直後から分解生成物であるシアン化水素の発生が観測された。 次に、振動励起の別の方法として分子を分解させて生じるフラグメントに着目した。エチルビニ-ルエ-テル(EVE)を熱分解するとアセトアルデヒドとエチレンを生じる。この単分子分解過程の遷移状態は6員環構造をとりアルデヒドのメチル基に転移する水素原子の変位ベクトルは非常に大きい。このため生じたアセトアルデヒドのメチル基の回転あるいはHーCーHの変角モ-ドが励起される。このような局所励起の反応におよぼす影響が期待される。実際にこのようにして生じたアセトアルデヒドの分解速度は1200Kで通常のアルデヒドの場合に比べて数百倍の速度であることが確認された。また、同様にアセトアルデヒドを発生するパラアルデヒドをもちいた場合はアルデヒドの分解は通常の速度と全く一致した。パラアルデヒドの分解では生じるアルデヒドを特に励起するような遷移状態の構造をとらない。 以上のように局所振動励起を2つの異なる方法で行ない明らかに振動励起と化学反応の関わりを観測することに成功した
|