本研究課題では、一般に短寿命種である低原子価典型金属化合物、特に、ケイ素、ゲルマニウム、およびスズ化合物を、安定に単離し得るものとして合成し、その期待される特異な物性と反応性を明らかにし、さらに機能性物質創生へと展開することを目的とした。平成2年度は、低温マトリクス中環状ビニルシリレンのマトリクス単離に成功し、その紫外吸収スペクトルに基づいてシリレンの電子状態に及ぼすビニル置換基の効果を考察した。また、1、1、4、4ーテトラキス(トリメチルシリル)ブタンー1、4ージイルジリチウムと塩化スズ(II)の反応によって、嵩高い置換基によって保護された単量体環状ジアルキルスタンレニン(1)の単離にはじめて成功し、その結晶のX線構造解析を行った。平成3年度はスタンニレン1と同じ環構造を有する4価スズ化合物(2)を新たに合成単離し、その結晶構造解析を行った。1と2の分子構造を比較することによって、スタンニレン1の環内炭素ー炭素結合距離の異常性等の構造上の特徴が明確になった。また、1の2、3の反応を見いだした。特に、1が低温テトラヒドロフラン中で可逆的な錯形成をすることをその紫外吸収スペクトルの温度変化によって明かにした。従来、2価14族金属化合物のエ-テル類との錯体形成は、低温マトリクス中においてのみ知られており、溶液中での挙動の解明は本研究がはじめてである。1と同様の置換基を有するケイ素およびムの化合物の合成について、その前駆体であるジハロ化合物の合成まで進行したが、それらの2価化合物への還元にはまだ成功していない。 また、ケイ素3価陽イオンであるシリセニウムイオンを、求核性の小さいテトラアリ-ルボラ-トイオンを対アニオンとして合成単離する試みを継続した。単離には至らなかったものの、シリセニウムイオンの溶液中の挙動に関して新しい知見が得られた。
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