バイオテクノロジ-のファインケミカルズへの応用は注目され、不斉反応試薬として微生物や酵素などの『生体触媒』が広く利用されて来ている。フェロセン化合物は、有機金属化合物の代表的な化合物で、同一環内に異なって置換基を二つ有する場合、面不斉によって光学活性な化合物となるものである。我々は、このような人工的化合物であるフェロセン誘導体が微生物や酵素によって、その面大斉認識が可能であるかどうか、また。可能ならその置換基の位置との関連において、どのような規則性が見られるかを明らかにするために、一連の研究を進めた。酵素反応としては、パン酵母還元、リパ-ゼ酵素による不斉エステル交換反応、不斉加水分解反応を検討した。また。基質として合成したフェロセン誘導体は、パン酵母還元反応には12種類(架橋鎖を持つ化合物は4種類)、エステル交換反応には9種類(架橋鎖を持つ化合物は3種類)、さらにメソ体としての検討には4種類であった。パン酵母還元反応は、発酵している酵母水溶液中にエタノ-ルに溶解した基質を加えることによって反応を進めた。検討の結果、酵素類は、極めて厳密にフェロセン誘導体の面不斉認識を行うことが明らかとなった。パン酵母還元においては、官能基であるアルデヒド基から2-の位置に置換基があるか3-の位置に置換基があるかで絶対配置の逆のものが反応することがわかった。置換基の大きさを変えて検討したところ、反応時間は長くなるが、エステル交換反応の場合には、光学純度が上昇してゆく事がわかった。酵素の種類、アシル化劑、溶媒等を変えて反応の検討を進めたが、最適な組み合わせを見いだすことによって、高い光学純度の光学活性フェロセン誘導体が得られることがわかった。反応の理論的考察としては、Plerog則やQuadrant則の適用が可能である。
|