α位にジメチルアミノエチル基を持つスチレン誘導体をヘキサン中、低圧水銀灯を用いて光照射したところ、メチル基からオレフィン炭素への分子内水素移動を経由した環化反応がおこり、ピロリジン誘導体が好収率で得られた。この光反応はジメチルアミノ基を他のジアルキルアミノ基に換えても同様に進行し、またベンゼン環に置換基を導入しても収率に大きな差はないので、これらの複素環化合物の合成法として有用であると考えられる。ただし窒素上のアルキル基がエチル基やベンジル基の場合、生成物は立体異性体の混合物となり、反応の立体選択性はあまり高くない。この光反応の効率は無極性のヘキサン中で最も高く、THF中では10分の1程度となり、アセトニトリル中では著しく低かった。 これらのアミノ基を持つスチレン誘導体のケイ光スペクトルにおいては、スチレン部分からのケイ光の他にこれより長波長領域に巾広い発光が見られ、励起錯体が生成している事がわかる。この励起錯体が光反応に関与しているか否かを明らかにするため、光反応とケイ光の消光についてのSternーVolmerプロットをおこなったところ、光反応の消光定数は励起錯体からの発光の消光定数とは一致せず、励起一重項(S_1)状態からの発光のそれと一致した。この結果から励起錯体は反応に関与しておらず、光反応は励起一重項から直接進行している事が明らかになった。これはスチルベンと三級アミンとの光付加反応が励起錯体からのプロトン移動を経由して進行するのと著しく異なっており、反応機構的にも興味深い。
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