研究概要 |
表題化合物であるカルベンを、相当するトシルヒドラゾンナトリウム塩の熱分解によって得る事を計画し、この物を合成した。Oージメトキシベンゼンと無水げルタル酸の反応により、δー(3,4ージメトキシ)バレリン酸を得、このものを環化してベンゾシロヘプテンとし、還元、酸化等、数段階の反応を径て、母体のケトン,ビシクロ〔5、4、0〕ウンデカペンタエノンを合成した。このものとトシルヒドラジドとを反応し、目的のトシルヒドラゾンを合成した。このものをナトリウム塩とし、熱分解によるカルベンの発生を試みた。カルベンの発生に伴って発する窒素ガスの発生は見られなかった。加熱後の反応混合物を詳細に検査したところ、複雑な組成をもつ混合物であり、また、出発物質は完全に消費されている事がわかった。 つぎに、10π電子系である上記カルベンに対し、6π電子系を構成するカルベンについても研究を行い、カルベンの性貭をより詳細に検討する為、シクロヘプタトリエニリデンについて検討した。トロポントシルヒドラゾンナリトウム塩を合成し、このものを熱分解する事により、目的カルベンを発生された。七員環共役化合物であるトロピリデン誘導体と反応したところ、1:1付加体を与えた。紫外、赤外吸収スペクトル、あるいは核磁気共鳴スペクトルを用いて付加体の構造を検討したところ、トロピリデンが6π系として作用し、〔6+2〕付加をしたものである事がわかった。ここで、カルベンは異性化し、環状アレンであるシクロヘプタテトラエンとして反応したものと思われる。トロピリデン誘導体の〔6+2〕型付加反応はその例が殆んど無く、従って本反応は非常に興味深いものである。6π環状構造が中間体として考えられる事より、芳香族安定化に伴うイオン的な材構で反応が進行しているものと思われる。
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