研究概要 |
本研究では,カルボニル化合物の励起状態とカチオン,ルイス酸,プロトン酸との相互作用(錯形成)の全容の解明およびその錯形成を利用する光化学反応の制御の可能性を検討し,次の知見を得た。 1. ケイ光スペクトルにおいて,種々のカルボニル化合物の励起一重項状態とカチオン,ルイス酸,プロトン酸との相互作用が認められた。カチオンとの錯形成では1:1および1:2錯体の形成が認められたが,ルイス酸およびプロトン酸との相互作用の場合には1:1錯体の形成だけが認められた。ケイ光スペクトル変化より求めた錯会合定数の値より,カチオン,ルイス酸,プロトン酸の順で相互作用が強くなっていると考えられる。また,いずれの場合も,基底状態における相互作用はほとんど認められなかった。 2. 溶媒効果やカチオンの種類の影響などの実験結果より,この錯形成は励起一重項状態のカルボニル基へのカチオンの配位に関係していると考えられる。ルイス酸やプロトン酸の場合にも類似の錯形成が進行していると考えられる。 3. カチオンとの錯形成は,芳香族カルボニル化合物の励起一重項状態から進行する二重化反応の量子収率を非常に低下させ,また,励起一重項状態すら進行するアルケンの芳香族イミドC-N結合への挿入反応を強く抑制した。さらに,光電子移動型の反応において特に顕著な錯形成の効果が観測されることが明らかになった。これらの系では,カチオンとの錯形成がカルボニル化合物の励起一重項状態の寿命を増加させ,その結果,電子移動反応が促進されたと考えられる。以上の結果より,カチオンとの錯形成は,光化学反応を制御する有効な手法となりうると考えられる。さらに,ルイス酸やプロトン酸との錯形成も光化学反応の制御に有効であることが明らかになった。
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