1.室温で保存できる安定な1ー(αージアゾベルジル)ビレン(DBP)は、カルボン酸エステルを高収率で与え、アミノ酸、ペプチドの光分解性の保護基として有効である。しかし、リン酸のエステル化には有効でないことが判明し、他の方法を探索した。その結果、臭化(1ーピレニル)メチルを酸化銀存在下カルボン酸、リン酸と反応させると、生成した臭化銀をろ別するだけでエステルが高収率で得られることを見いだした。この方法によるウロン酸、cAMPなどのエステルの合成が現在試みられている。 2.カルボン酸(1ーピレニル)メチルの光分解反応について量子収率の決定、反応機構の詳しい検討をおこなった。1ーピレニルメチル側の電子吸引性の置換基により、この系列のエステルで一般的なCHーOCO開裂以外にエステルCHOーCO開裂も起こりやすくなることが判明した。 3.pー置換安息香酸ωー(1ーピレニル)アルキルの励起状態における分子内電子移動について詳しい検討がおこなわれ、pーシアノ安息香酸2ー(1ーピレニル)エチル(P2CN)などについて、分子内エキサイプレックス生成、活性化エネrギ-、速度定数が決定された。P2CNについて、ピコ秒寿命測定(理化学研究所中村淳子博士との共同研究)、 ^1HーNMRーNOEの観測結果より、基底状態でDとAとが重なりあった立体配座からのみエキサイプレックス発光がおこっていると結論された。一般にフレキシブルな系でのエキサイプレックスは励起状態で分子が折れ曲がることにより生成すると考えられているが、この系は基底状態での折れ曲がり配座から生成することが確かめられた始めての例である。
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