研究概要 |
アセトニトリル中Pd(dba)_2とArX(X=N_2BF_4,I)から発生させるか、Pd(dba)_2とArN_2BF_4から系中で発生させた[ArPd]^+BF_4^ーへ過剰のNaX:X=Br,I,OAcを加えて得たArPd(S)_2X(S=CH_3CNなどの配位性溶媒)とPh(R_3Sn)C=CH_2あるいはPhCH=CHSnR_3(R=Ph,Bu)の反応では、アニオン性配位子Xの種類によりその反応様式に大きな差が認められた。即ち、配位力の弱いBF_4^ーの場合、Ph(R_3Sn)C=CH_2との反応では、PhCH=CHArのみを与え、PhCH=CHSnR_3との反応ではPh(Ar)C=CH_2を主として生成した。しかし、Xが配位力の強いハロゲン等の場合には、Ph(R_3Sn)C=CH_2からはPh(Ar)C=CH_2が、PhCH=CHSnR_3からはPhCH=CHArが得られた。一方、配位力の強い中性配位子であるPPh_3が配位したArPd(PPh_3)_2X(X=BF_4,I)との反応では、アニオン性配位子Xの種類によらずPh(R_3Sn)C=CH_2からはPh(Ar)C=CH_2が、PhCH=CHSnR_3からはPhCH=CHArを生成した。 これらの結果は、アリ-ルパラジウム錯体の中性配位子が溶媒などであり、アニオン性配位子がBF_4^ーなどのように配位力の弱い場合、下式に示したように、ArーPdが二重結合に付加しPdとSnが脱離する、いわゆる付加ー脱離機構で進行していると考えられる。【chemical formula】 一方、アリ-ルパラジウム錯体の中性配位子が配位力の強いPPh_3の場合、アニオン性配位子の種類によらず、下式に示したいわゆるトランスメタル化ー還元的脱離を経る機構で進行していると考えられる。【chemical formula】これは、遷移金属錯体触媒を用いる炭素ー炭素結合生成反応における、反応経路の多様性を示すと共に、遷移金属上の配位子の重要性を明確に示するものであり、興味深い結果である。
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