研究概要 |
海洋生物は陸上のものに比較して相当長い炭素鎖からなる有機分子を産生する。パリトキシン,ハリコンドリンはその例でありすでに構造が決定されている。これらの分子は宿主生物自身が産生するのではないと予想されているが,実験的証明はなされていない。本研究ではこれらの分子,いわゆる高次炭素鎖化合物の生物オリジンを発見するとともに新規の同類の物質を発見しようと試みた。 ヒラムシに共生する渦鞭毛藻の培養を試み,その藻体中に高次炭素鎖化合物が存在することが判明した。分子量はパリトキシンよりも大きいと推定され,各種スペク解析を行なった。しかしながら,培養による得られる物質量は少なく,構造解析は困難であった。種々の条件下で培養を試み収量の向上を図ったが解決するには至らなかった。本研究により明らかとなったことは,高次炭素鎖化合物の第一次生産者は渦鞭毛藻と考えてもよいということ,渦鞭毛藻の培養は大変難しく,培養だけで試料を得ることが困難であることが指摘できる。しかし,今後機器分析技術も向上するのでそれを利用して最終結論を得たい。 一方,渦鞭毛藻の培養は非常に遅いが他の微細生物(バクテリア,藍藻,カビ,放線菌など)はそれ程でもない。そのため,クロイソカイメンの共生バクテリア,放線菌の培養を行なった。目的とする化合物はやはり高次炭素鎖化合物のオカダ酸,ハリコンドリン等抗菌性,抗カビ性を有する物質の探索である。結論としては,高次炭素鎖化合物は発見されず,生物オリゴンはやはり渦鞭毛藻〓を示唆した。この研究過程でプリパスタチン,イチュリンなど既知の環状ペプチドを得た。これらの物質は陸生のバクテリアの二次代謝産物であり,岡見らの報告した結果,すなわち陸生のバクテリアが浅海の生物には共生することを示持することとなった。新規の物質もあるので構造を決定する予定である。
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