平成3年度は平成2年度に引き続き、種々の遷移金属イオンに硫黄原子あるいはセレン原子を含むDーペニシラミンやアミノエタンセレノ-ルを配位した多核錯体を合成単離し、その分光化学的、立体化学的、電気化学的性質について検討し、興味ある知見を得ることができた。 まず、Dーペニシラミンを配位したコバルト(III)単核錯体を合成した。この単核錯体の配位したチオラト型硫黄原子は、さらに特異な反応性により2つの六配位八面体性金属原子間に架橋配位し、直線型二核および三核錯体を立体選択的に生成した。Dーペニシラミンが二座配位子および三座配位子の2つの配位様式をとる二核錯体を得ることもできた。これらの選択性の原因が、錯体中の配位子の不斉配置に大きく依存することを明らかにした。また、可視および紫外部吸収帯領域に特異なスペクトル挙動を示すが、これらと立体化学的性質との関係も明らかにした。 次に、アミノエタンセレノ-ルを配位した遷移金属単核錯体を合成した。この単核錯体中のセレン原子は、四面体性金属イオンと架橋配位して、上記直線型多核錯体とは大きく異なるケ-ジ型多核錯体を形成した。この代表的な錯体について単結晶X線結晶解析法を行ない、ケ-ジ型多核錯体の立体配置を追及した。このケ-ジ型構造は、中心に酸素原子が位置し、それに4つの亜鉛原子が結合して正四面体状の核を形成している。この3つの亜鉛原子で作られる正三角面にそれぞれ単核錯体の3つのセレン原子が配位してこの単核錯体部分も正四面体を形成している。このケ-ジ型構造は、固体中ばかりでなくな溶液中でも安定に存在しており、特異な立体化学的、分光化学的および電気化学的挙動を示し、これらの物性と中心金属まわりの結合状態との関係を明らかにした。
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