研究概要 |
我々は既に独自に開発した精密な反応熱測定システムや分光光度滴定システムを用い、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)などの溶媒中、25度において2価遷移金属イオンがハロゲン化物イオンと反応し、一連のモノ,ジ,トリ,テトラ錯体を生成すること,また錯形成の過程で金属イオンの配位構造が溶媒和錯体の8面体6配位構造からハロゲノ錯体の4面体4配位構造へ変化することを明らかにした。さらに構造変化を引き起こす錯体種の中には構造異性平衡にある系も存在することが示唆された。構造異性平衡は温度に依存する。そこで本研究では錯形成反応の熱力学的パラメ-タ温度依存性を検討した。DMF及びDMA中でNi(II)のクロロ錯体生成反応を,分光光度法では5,25,45度において,カロリメトリ-では25,45度(5度では恒温装置の能力不足の為測定不能)で調べた。その結果,各錯体の生成のエンタルピ-及びエントロピ-の温度依存性に著しい相違があることを見い出した。第一は、エンタルピ-,エントロピ-の温度依存性が事実上無い(即ちvan't Hoffプロットは成立する)もので,これは反応及び生成錯体種ともに構造異性体が無い場合であった。第二に生成エンタルピ-,エントロピ-が大きな温度依存性を示したもので,その変化の方向は構造異性平衡の温度依存性から合理的に理解できるものであった。実際同時に電子スペクトルの温度依存性も見られ,構造異性平衝にある錯体種を含む反応であることは疑う余地は無い。この事から反応の熱力学的パラメ-タの温度依存性を調べることで,溶存錯体の構造平衡に対する知見を得ることが出来ると考える。
|