研究概要 |
多核金属錯体内の電子状態を金属まわりの周辺および架橋配位子によってコントロ-ルしたり,外部信号に応答できる系が可能になれば,錯体内での光誘起電子移動やエネルギ-移動の方向の制御やスイッチングが可能となる。ここでは,平成2年度の継続としてプロトン平衡による酸化電位のpH依存性を利用して(2ーピリジル)ベンズイミダゾ-ルを含む多核錯体の電位をコントロ-ルして錯体内での相互作用のスイッチングの可能性を検討した。本年度はベンズイミダゾ-ル基を基本骨格とする架橋配位子に非対称性を導入した系を用いた。(図1)合成した二核錯体は,[Ru_2(bpy)_4(L)]^<4+>(L=架橋配位子)である。得られた錯体はいずれの場合にもUVスペクトルにおいて460から540nmに電荷移動吸収帯が観測される。この吸収帯はpHにより大きく変化する。錯体の酸解離定数pK_aは,5.61(L=bpbimH_2),5.91(L=mbpbimH),2.4(L=bzbimH_2)で置換基に大きく依存する。また,酸化還元電位もプロトン移動とカップルする形で変化する。 図2にL=mbpbimHの場合の酸化電位ーpH図を示した。pH2.2から6.0の間では初め+1.15および+1.01Vに見られた二つの酸化波はpHの上昇とともに,より正側の波はほとんど電位は変化しないが,負側の波は傾き-68mVでカソ-ド側にシフトする。しかし,pH6.0を過ぎると二つの波の電位はpHに依存しなくなり一定となる。二つの酸化過程の電位の差は0.14V(pH2.2)から0.36V(pH10.0)と大きく変化する。pH2ー6の間では1電子ー1プロトン移動反応が関与していると考えられる。pHに依存しない架橋配位子ーNーMEサイトとpHに依存する架橋配位子NーHサイトが同じ錯体分子内に共属することにより,金属間相互作用がプロトン移動とともに変化することを意味しており,相互作用のプロトン移動によるスイッチングの可能性が明らかになった。
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