無機立体化学の二つの指導原理、(1)分子(錯体)内の結合していない原子(イオン)間の反発を最小にし、(2)結合している原子間の軌道の重なりを最大にする、のうち(2)の立場に立ち、角重なり模型を用いて配位の幾何学的構造と電子的構造との関係を論ずるのが本研究の目的であって、本年度は2配位および3配位の場合について研究した。CO_2やNH_3のような中性分子も(C^<4+>)(O^<2->)_2、N^<3+>(H^-)_3のように錯体として考える。 1.2配位錯体の結合角について角重なり模型による解析の結果、次の結論を得た。 (1)s軌道とp軌道だけを用いて結合がつくられるとき、CO_2のように中心イオン(C^<4+>)が閉殻構造をもつ場合には、錯体は直線状になる。一方、中心イオンがs^1(NO_2)、s^2(SO_2)、S^2p^1(ClO_2)、S^2p^2(OF_2)の電子配置をもつ場合には、折れ曲がった構造をとる。 (2)s、pのほかd軌道が結合に関与する場合には、結合角は54.74゚から180゚までの値をとることが理論的に可能である。この範囲の中で極端に小さい値は配位子間の反発のため実現困難であるが、AuI結晶中に存在するーAuーIーAuーIー鎖のAuーIーAuの結合角が72゚であるという事実はこの結論を支持する。 2.3配位錯体の形について、角重なり模型により次の結論を得た。これらはすべて実験事実と一致する。 (1)CO_3^<2->のように中心イオンが閉殻配置をもつ場合には、平面正三角形の形をとる。 (2)NH_3のように中心イオンがs^2配置をもつ場合には、正三角錐の形をとる。 (3)ClF_3のように中心イオンがs^2p^2配置をもつ場合には、d軌道が結合に関与することが必要となり、その結果分子はT字型となる。結合角は90゚よりいくらか小さくなる(FーClーF結合角の実測値87゚)。
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