平成4年度は、5配位、6配位、7配位錯体の中心イオンの電子配置と幾何学的構造との関係について角重なり模型による研究を行った。 1.5配位錯体:昨年度に引き続き研究を行い、満足すべき成果をえてこれを完了した。中心イオンが閉殻または18電子殻構造をもっているときには、三方両錐または正方錐型構造が可能である(実際にも両方の構造が知られている)。三方両錐型の場合には軸方向の2個の結合は主としてpz-dz^2、xy面内の3個の結合はsp^2混成軌道によってつくられる。ただしdz^2とsとは互いに混じり合う。このことから軸方向の結合が弱くて長くなることが予想されるが、[HgCl_5]^<3->の場合のほかは実測と一致する。中心イオンがs^2電子配置をもつ場合には、構造は正方錐型に限られ、しかもその中心原子は底面の正方形より下に位置すること、軸方向の結合のほうが短いことを予想した。これも実測と一致した。中心イオンがd^8電子配置をもつときは、三方両錐型と正方錐型とが可能であることを予想したが、実際にも両方が知られている。これらすべての場合について、混成軌道の波動関数の形を示した。 2.6配位錯体:正八面体型のほか三方柱型とねじれ三方柱型が考えられる。計算の結果、三方柱型では結合軸がz軸と49.1065゚をなすときに互いに直交する混成軌道が得られた。ねじれ三方柱型では結合角がz軸と54.74゚をなす場合、すなわち正八面体の場合に同様な結果を得た。 3.7配位錯体:五方両錐型の場合にのみ互いに直交する混成軌道がえられた。面冠三方柱型、面冠八面体型の場合、対称性の条件を満たす混成軌道は得られるが、それらは直交性の条件を満たすことができない。五方両錐型以外の錯体においては、錯体が歪んで結合の長さが均一でなくなることによって軌道の直交性が保たれていると思われる。 4.論文の執筆を急ぐとともに、研究の一層の発展を目指している。
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