平成2年度、3年度にわたる本研究の結果、パンコムギの1品種Chinene Spring(コムギの遺伝学研究に最もよく使われている)に染色体欠失を誘発し、欠失系統を育成するという当初の主目的は、ほぼ達成された。数回の自家受精とC-バンド分染法による細胞遺伝学的選抜により、合計382の欠失染色体を同定、分離することができた。この内、263の欠失染色体はホモ接合状態(特定の欠失染色体が1対存在し、その正常な相同染色体は存在しない)になっているので、直ちに、欠失地図作成に利用できる。しかし、残りの欠失染色体はどうしてもホモ接合状態にならなかったか、得たホモ接合個体が不稔なることが判明した。このような欠失染色体の大部分については、欠失染色体のヘテロ接合個体(特定の欠失染色体とその正常相同染色体を1本づつもっている)にChinese SpringのNullisomicーtetrasomic系統(特定染色体が1対なくなっていて、それを補償する同祖染色体が1対余分にある)を交配した。この交配子孫から欠失染色体がヘミ接合(特定の欠失染色体が1本だけ存在し、その相同染色体は存在しない)個体を選抜すれば、欠失地図作成に使うことができる。ただし、2A染色体短腕と4B染色体短腕のすべての欠失染色体については、ホモ接合個体が不稔で、適当なNullisomicーtetrasomic系統がないので、ヘテロ接合状態で系統維持されている。 上記の欠失系統を用いて、これまでに花粉稔性を支配する遺伝子、異質細胞質による雄性不稔に対する稔性回復遺伝子の欠失地図作成を行い、結果を論文としてまとめた。この他にも、アイソザイム遺伝子、標識DNAに関する欠失地図作成も共同研究として進行中である。
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