研究概要 |
本年度においては,ススキスゴモリハダニとケナガスゴモリハダニの2種を材料として,それぞれの近交弱勢の生起程度を14世代の母子交配によって測定した.その結果,ハ-レム型の繁殖システムをもつススキスゴモリハダニにおいて非ハ-レムのケナガスゴモリハダニよりも近交弱勢が強いこと,またその近交弱勢は,そのような弱勢因子が世代とともに血統から排除されることから弱い有害性をもつ劣性遺伝子によることが推定されるに至った.また,そのような弱勢が排除された結果,両種ともに極端な近交によってもその血統が正常に維持されることが判明した. 上記の近交の血統および野生系統のアイソザイムについて,8月共同研究者を当大学に招請し,共同で電気泳動による分析を行った.その結果,外交配をしていると見られるススキスゴモリハダニにおいていくつかのエステラ-ゼ多型の存在が示唆され,今後その遺伝分析を行うことで,それが個体群の構造を明らかにする1つの手段として利用する道が開かれた. 8月末から9月にかけて,ススキスゴモリハダニの主要分布地域において採集調査を実施し,その採集個体群の形態および行動を分析したところ,明らかに個体群間に雄の攻撃性の変異が存在すること,その変異は雄の第1脚の相対長と対応していることが明かとなった.この変異には,雄の越冬生態が関連しているという可能性について,現在分布地域における調査を継続している.このれらのデ-タは当初予想した通り,ケナガスゴモリハダニの雄の繁殖システムが,雄の分散性を通した血縁選択の下にあることを強く示唆しており,一連のデ-タを整理して,近い将来論文として公表する準備に入っている.
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