研究概要 |
本年度は,平成2年度の西日本を中心とした採取調査と実験の成果を踏まえて,北海道内および九州において材料(ススキスゴモリハダニ)の追加採集を行い,さらに依頼等によって入手した多くの地域個体群における,同ハダニの雄の攻撃行動の実験的検討を継続した。同時に,気象庁のアメダスデ-タの検索を行い,全採集地の温度条件を検討した.また,この調査に当たって,ハダニの標本を形態測定用に良好に作成するために,新しい固定方法の開発を併せて実施した. その結果,以下のような事実が明らかとなった. 1.西日本を中心とした18地域の個体群を調査した結果,ススキスゴモリハダニの雄の攻撃行動には,個体群を採集した地域の冬の温度に相関した地理的変異が存在することが判明した. 2.ススキスゴモリハダニの雄の形態,特に第I脚に攻撃性の地理的変異に平行した長さの変異がみとめられた. 3.1の事実は,当該行動の進化が血縁選択によって生じたということを示す世界的にもきわめてめずらしい証拠であると結論された. 4.2の事実は,攻撃性が血縁選択によって変化した結果,雄の繁殖システムが変化し,それによって雄の武装形質が性淘汰されたことを示すと結論され,これも野外個体群にはじめて発見された性淘汰の証拠であると結論された. 5.副次的な成果として,これまで良好なスライド標本を作ることが困難であったダニ類の標本作成のために,きわめて簡便な固定方法の開発に成功した. 6.上記の研究の成果は,国際行動学会議において発表するとともに,平成2年度に論文として公表した分に加えて,現在3編の原著論文にまとめて投稿中である.
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