アリ共生型と非共生型アブラムシの行動生態比較を数組の同胞種(sibling species)について観察したが、顕著な違いを見つけることはできなかった。このことは、ハナバチと顕花植物の間にみられるような堅固な共生に比べ、アリをめぐる共生のほとんどがルーズであることの反映とも考えられる。そこで、アリとアブラムシの共生、およびアリとアリ散布型植物の共生を、特に間接作用の可能性に着目しながら観察した。まず、エゾアカヤマアリがスーパーコロニーを形成する石狩海岸においてアリ-アリ共生型アブラムシ-カシワ-食植害虫の4者関係を調べたところ、アリがいる場合にはアリ共生型アブラムシは増えたが、非共生型アブラムシ、蛾の幼虫、ゾウムシなどの食植害虫は明らかに減少した。また、カシワの適応度の指標の1つであるドングリの生産量を調べたとこと、アリの多い場所と少ない場所の間で有意な差はなかったが、蛾などの幼虫による食害によって発芽不能となったドングリの比率は後者で2倍近くにも達した。エゾアカヤマアリはドングリの中の害虫を直接捕食することはできないが、蛾などの幼虫が羽化するまでには1個のドングリだけでは餌として不十分であり、幼虫はしばしばドングリから脱出して新しいドングリに侵入しようとする。このときアリが捕食すると考えられる。以上の結果はアリと植物はアブラムシを介した間接的寄生の関係にあるとは限らず、時には間接的な共生関係を結びうることを示唆している。次に札幌近郊の山林において、myrmecochoreと考えられているエンレイソウ、スミレ、カタクリなどを材料として、アリの種子散布を詳しく観察した。その結果、これらの植物の種子がアリによって分散されるのは間違いないものの、その率は20%程度にしかならないことが明らかとなった。これはゴミムシやオサムシなどの夜行性の歩行性甲虫が種子表面のエライオゾームを盛んに食べるため、結果的にアリによる散布を妨害しているためである。スミレはアリ散布とはじき飛ばし散布の二重散布型だが、歩行性甲虫がまだ少ない春に結実する種ではアリ散布型に、甲虫が多い夏に結実する種でははじき飛ばし散布により依存している傾向が認められた。
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