研究概要 |
地形と植生との動的関係を調査した.調査地は那須,日光,秩父,清澄山などである.那須,日光,秩父などについては地形計測と植生分布パタ-ンの解析など記載的な調査を行った段階である.斜面以外の地形単位では気候的極相種が定着できずミズナラ林,コメツガ林などといわゆる地形的極相が成立するメカニズムが解明されつつある.清澄山では尾根,斜面,谷の地形に対応した植生分布を調べ,それぞれの植生の成立過程について具体的な知見を得た.約10年前に当時50年生の一斉再生林に設定したパ-マネントコドラ-トで再調査したところ尾根はスダジイ,斜面中部はアカガシ,斜面下部はウラジロガシがそれぞれ成長率が最も高く,次第に地形に応じたすみわけが明瞭になりつつあった.自然林地域で地形と植生のパタ-ンを調べると尾根は針葉樹,常緑樹,落葉樹が混交しており,針葉樹実生の連続的更新が可能であった.斜面では常緑樹が卓越し,林床での針葉樹の更新は不可能であった.また,谷は落葉樹が優占し,針葉樹は定着可能であるが,頻繁な攪乱によって成長する個体はほとんど無い.頻繁に崩壊を繰り返す谷の崩壊斜面にはフサザクラの優占群落が成立する.この斜面の地形を細かく計測して調査したところ,攪乱頻度が高い部分は先駆的な落葉低木,また,安定しつつある斜面では下層に常緑樹が侵入して周囲のインタクトな斜面の植生と類似してくる.その両者の中間,高木種が定着可能な最前線にフサザクラ林が成立している.この種はパイオニアとしては地形と無関係に広く出現する.したがってこのパタ-ンの成因は安定立地ではフサザクラが競争的に排除されてしまうためである.まとめると,特殊地形は制約要因となって出現種を限定するが,一般地形は種間競争を介して競争的に有利な種を定着させる.次年度以降は地形的制約要因の解明とそれに対する種の適応,種間競争を決める競争的ヒエラルキ-の解明をする.
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