最終年度である今年度はこれまでの結果をとりまとめる方向で研究を行った。1年目、2年目の調査経過については既に各年次ごとに報告してあるので、ここでは最終的に得られた結果を一般化する方向で報告する。地形に対応した植生パターンの成因が明確に把握されたのは日光、秩父、清澄山などであった。那須でも調査を行ったが、ここでは短期間であったことと、若令林分であったために斜面方位に対応した植生パターンは把握できたものの、その成因までは明確にできなかったので、今後も調査を進める予定である。成因が解明できた3地域について見ると、いずれも地形によって決定される地表面の安定性が植生の分化に大きく影響していた。その際、植物種のがわの属性としては実生の初期サイズが大変重要であった。どの種も、実生段階では林内に広く出現したが、ごく初期の段階でツガなどの小型の実生は地形的に不安定な斜面や谷付近では流亡したり、埋没して消滅してしまい、尾根にしか生残個体はみられなかった。その結果、尾根に針葉樹、斜面や谷に落葉広葉樹といったパターンが形成された。これはBond(1989)の「針葉樹は実生の成長速度が遅いために広葉樹林から競争排除される」という説を否定はしないが、地形を介したその具体的メカニズムは必ずしも競争排除とは言えないことを示唆する。湿潤変動帯においては、とくに実生段階での定着を左右する地表面の安定性がきわめて重要である。地形傾度が効いて来る山地では植生の動態単位が地表面の安定性によって区分された地形単位によく対応して形成されており、その成因は、まず実生の定着、初期成長速度、埋没されたときの萌芽再生能力などによって全か無かの選抜が行われ、その後は定着個体間での競争的関係へと移行して行く。しかがって、地形を介した場合は種の地形の安定性に対する撹乱耐性が重要となり、資源を介した直接的競争関係があるわけではないことが明らかになった。
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