3年間にわたって地形と植生との関係について研究を行った。気候要因によってその分化が起こるマクロスケールでの植生帯に対して、その下位のメソ-スケールでの植生分化は地形条件によってその分布・分化が引き起こされる。地形は複合的な環境傾度で、具体的には地形にともなう温度、水分、栄養塩、地表面の安定性、土壌の厚さなどが植物分布を支配する。しかし、これらいずれの条件も単独で効くことはなく、相互に強い相関関係で結ばれている。したがって、ここではこのようなメカニズムで形成される群落一般をさして複合的環境としての地形に着目して地形的群落(topo-community)と名付けた。成果報告書で詳しく述べたように日本のどの気候的植生帯においても、このような地形複合環境傾度に対応していると考えられる植生パターンが一般的に存在することが確認できた。亜熱帯・暖温帯常緑広葉樹林域では安定した頂部平坦面にはスダジイ、カシ類などの亜中形葉(notophyll)を持つ常緑広葉樹林が分布し、やや岩塊根的になるとツガ、アカマツ、ヒメコマツなどの針葉樹類が卓越するようになる。さらにこの領域で特徴的なのは孤立峰や海洋島の山頂部、痩せ尾根、裸地などのように風衛、貧栄養、遷移初期など一般的にシビアなストレス環境下では小形葉(microphyll)の森林に移行するというパターンがみられる点である。これはいずれの場合も環境条件が平滑斜面に発達するnotophyll林の成立を許さない場合であって、これら2種の生活型群、あるいは生態群はnotophyll群が一方的にmicropyll群を競争排除するという関係にあることを確認できた。また、平滑斜面と麓部斜面、下部谷壁斜面、あるいは崩壊地などいわゆる谷型落葉樹林との関係も同様であり、平滑斜面の常緑notophyll林は谷型落葉樹林を競争的に排除していることが明らかになった。同様の分析を冷温帯落葉広葉樹林域でも行った。落葉広葉樹林域では頂部平坦面にミズナラ、岩塊尾根にツガ、斜面にブナといったパターンが形成されるが、この場合は斜面表層物質の安定性が実生の定着、生残に大きく影響していることが明らかになった。これは湿潤変動帯における植生の特徴である。
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