富士山南東斜面の森林限界付近には、イタドリ、オンタデの多年生草本群落が広く分布している。イタドリはオンタデとともに、ここでは優占種であり、大小様々なパッチを形成している。イタドリのパッチは、大型に生長すると、中央部が枯死して、いわゆるデッドセンタ-を作る。このデッドセンタ-は、ド-ナツ化現象として古くから知られている。 本研究は、いかなる理由でデッドセンタ-が生じるかを、生理生態学的な側面から明らかにしようとしたものである。測定は、2年間にわたり、水ポテンシャル、光合成、根茎の呼吸速度、忌避物質の測定等の項目について行った。 水ポテンシャルおよび光合成の速度の測定は、ド-ナツ化現象がみられる大型パッチについて、中央部と周辺部に分けて行った。水ポテンシャルは中央部と周辺部でほとんど差異はみられなかったが、光合成速度は周辺部が高く、中央部のデッドセンタ-のシュ-トでは著しく低い値を示した。このことから、イタドリのパッチについて水条件は、ほぼどの部分においても一定であり、光合成能力は生産量の高い周辺部で高い現象がみられることが明らかになった。 根茎の呼吸は、各部分により顕著な差異がみられた。すなわちデッドセンタ-部分の根茎は、呼吸量が少なく活性が低い状態であった。また、アレロパシ-の現象はイタドリパッチ内ではみられなかった。 上記の結果は、パッチが生長するに従い、地下茎の密度が増加することと、枯死部が増加することにより、中心部の活性が低下することを意味している。ド-ナツ化が起こる過程では、まず中央部分の地下部の活性が低下し、その結果として、地上部のシュ-トの光合成速度も低下し、ド-ナツ化現象へと発展することが明らかになった。
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