ドブネズミに関する調査:血液、臓器タンパク変異、ミトコンドリアDNA変異を遺伝標識として国内各地の集団の遺伝子構成を調査した。従来調べている本州、四国に加え、今年度は新たに九州、沖縄にまで調査を広げることができた。定地点の長期調査の結果、タンパク、DNAいずれの遺伝標識からも野生ドブネズミ集団内の遺伝子構成は経時的に安定していることが確認され、一回の調査結果で特定集団の遺伝子構成を代表させ地域比較を行いうると判断した。各地の集団を比較したこれまでの結果では、地域間の遺伝的分化が地理的な距離と明暸な相関を示さず、集団間の遺伝的分化の程度はこの動物では顕著であるとの証拠が得られつつある。また、母系に片寄った半数体性の遺伝様式をとるミトコンドリアDNAの変異型分布では、生息環境によって集団内変異性のレベルが大きく異なり、対象生物を通じて環境査定を行う糸口がみいだされつつある。 カニクイザルによる調査:人為導入された小島の集団(モ-リシャス、アンガウル)の遺伝的特性を検討した。血液タンパク多型を遺伝標識として原産国(東南アジア)集団との比較を行った結果、少数の基礎個体から創られた隔離集団の遺伝的変異性が予想とは異なり低下していないことが明らかになりつつある。隔離直後に新たな生息環境に適応し集団サイズを急速に増加させたことがこの原因と予想される。また、人間との共生関係を形成した歴史が短かいことを示唆する特性として非連関群に属する2遺伝子座の遺伝子間の一部にランダムでない出現傾向(Gametic Disequilibrium)が検出されたことは興味深い。
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